生命科学の力で自己を作り変えた人間の未来はどうなるのか?米大統領生命倫理委員会のトップによる、迫りくる「人間の終わり」への警鐘。
●科学やテクノロジーに依存し、「自由」と「権利」の名のもとに遺伝子・生殖細胞・身体の改変や、不死までも求め始めた人類。その先に待っているのは本当に「すばらしい新世界」なのか? 米大統領生命倫理委員会を率いる著者による、「人間が人間でいられる未来」を守るための勇気ある提言の数々。
◆「生命操作」の時代が生みだす重大な倫理的問題◆
*「身体改変」は新たな不平等を生み、民主主義の原理が崩壊する
*デザイナー・ベビーは親の「所有物」や「作品」になる
*胚の操作やクローニングは、人間の生殖を「製造」に変えてしまう
*臓器の売買はなぜ人に嫌悪されるのか?
*延命治療技術の進歩が、多くの安楽死を生み出している
*人間に「死ぬ権利」は本当にあるのか?
*人工的に得られた長寿は、人を幸せにしない
=推薦=フランシス・フクヤマ(ジョンズ・ホプキンズ大学教授、『歴史の終わり』『人間の終わり』)
「科学界やバイオテクノロジー業界を巧みに弁護する生命倫理学の専門家が多くなっている今日、レオン・カスは、テクノロジーの変化によって浮き彫りにされた倫理的問題の核心を追及し続けてきた、数少ない人間のひとりである。彼は、バイテク革命の過去と未来の理解に欠かせない一冊を著した」
はじめに
人間後の未来に向き合うこと
生命倫理学を深めていく必要性
自由主義の原理の強みと限界
人間の尊厳の探求
各章の内容について
■ 第一部――テクノロジーと倫理学の本質と目的
第一章 テクノロジーの問題点とリベラル民主主義
テクノロジーとは何か
何が問題なのか
テクノロジーの問題
●「自然の支配」の実現可能性
● 目標と善意
● 悲劇的な自己矛盾
テクノロジーとリベラル民主主義
第二章 倫理学の実践――どのように行動すればよいか
倫理学の実践の現況
理論と実践――言説と行動
感情と行動の習慣――異なる倫理学の実践に向けて
明日に向けての行動
道徳資本を一新し、道徳的な英知を求めよう
■ 第二部――バイオテクノロジーからの倫理学的挑戦
【生命と血統――遺伝学と生命のはじまり】
第三章 研究室における生命の意味
疑問の意味
体外の生命に対する位置づけ
体外にある胚の処遇
血のつながりと親であること、肉体をもつことと性
将来の展望
国の助成にかかわる問題点
最後に
第四章 遺伝子テクノロジー時代の到来
遺伝子テクノロジーは特別か
遺伝的自己認識は役に立つのか
自由はどうか
人間の尊厳はどうか
●「神を演ずること」
● 生命の製造業化と商品化
● 基準、規範、目的
● 成功の悲劇
第五章 クローニングと人間後の未来
クローン人間の創造への準備
最先端技術としてのクローニング
クローニングを評価する文脈
性の深遠さ
クローニングが悪である理由
異議への回答
人間のクローニングを禁止する
思慮分別の必要性
【肉体と魂――人間の生における「部分」と「全体」について】
第六章 臓器売買は許されるのか――その是非、所有権、進歩の代償
臓器移植の是非について
所有権について
進歩の代償について
【死と不死――最期まで人間として生きること】
第七章 死ぬ権利はあるか
「死ぬ」権利
死ぬ「権利」
なぜ「死ぬ権利」を主張するのか
「死ぬ権利」はあるのか
死ぬ法的な権利はあるのか
「死ぬ権利」の悲劇的な意味
最後に――「権利」について
第八章 尊厳死と生命の神聖性
生命の神聖性(と人間の尊厳)
尊厳死
安楽死――尊厳のない、危険な死
第九章 栄えある生命とその限界――生命に終わりがある理由
人間の妥当な寿命
死すべき運命の価値
不死への願望
自己の永続化
■ 第三部――生物学の本質と目的 ■
第一〇章 生物学の永遠の限界
実践に関する限界――「限界のない目標」のもつ限界
哲学的な限界――命のかよわない概念
新たな生物学――究極の限界