朝日新聞 2005.5.29(日)書評欄へリンク
近代科学の勃興(ぼっこう)により、それまで世の中の常識だった神秘主義は、迷信の地位までおとしめられた。しかしながら、科学的説明を阻む現象は、LSDや瞑想(めいそう)の体験を含めて多数報告されており、神秘主義と科学の統合を試みる人は多い。哲学者のベルグソンや物理学者のボームなどがその代表格。本書もその流れ。
著者の本職はピアニストだったが、哲学を学び、システム哲学という新分野を開拓した。その後、国連の依頼による新しい世界経済秩序の研究など多方面で活躍してきている。
古代インド哲学には、宇宙の森羅万象から人間の想念にいたるまで、ありとあらゆることが記録されているといわれる「アカシック・レコード」という概念があるが、本書のすごいところはそれを、科学的視点から説明していることだ。
ボームは、素粒子の奇妙な振る舞いを説明するための仮説として、物質的な世界の背後に、目に見えない、時間も空間も超越した世界(内蔵秩序=私はそれをあの世と呼んでいる)の存在を説いた。著者の説もその路線を踏襲するが、あの世の正体は真空そのものだ、と言い切る。
最新の物理学によれば、真空は単なる空虚ではなく、莫大(ばくだい)なエネルギーを秘めている。著者は、そこにあらゆる事象や想念が、歪(ひず)みとして痕跡を残しており、宇宙はそれを通じて瞬時に影響しあう、密結合されたひとつの実体だと説く。この仮説により、宇宙論の謎、量子力学の謎、生物学の謎、意識研究の謎のすべてが氷解すると述べている。
私自身も、瞑想を通じて神秘体験になじんでいる。いままでボームの仮説を紹介しながら、神秘と科学を統合する本を書いてきた。しかしながら、ボームの仮説も物理学の世界では受け入れられておらず、著者も私も、物理学者ではないから書ける、という面は否定できない。ともに、厳密な意味での科学的仮説というよりは、科学的ロマンと呼ぶのがふさわしいだろう。しかしながら内心では、頭の固い物理学者たちを尻目に、このロマンが着々と証明され、科学の主流になる日を確信している。
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